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制御されている私たち 原発推進の内なる空気 金原ひとみ(東京新聞)

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制御されている私たち 原発推進の内なる空気 金原ひとみ
東京新聞 2011.10.11 夕刊 のコラムから

長女の小学校入学や、マンションの購入なども人並みに考え、ある程度の未来を見据えながら、来月の出産に向けて入院の荷物をトランクに詰め、長女のおさがりの新生児服を洗濯して綺麗きれいに畳み直し、あと僅わずかとなった三人での生活をかみしめるように一日一日を過ごしている時、地震が起きた。

 三月十二日、福島第一原発の1号機で水素爆発が起きた三時間後、私は娘の手を引き夫と三人で岡山に向かった。
あの日、私の見据えていた未来は消えた。

放射能、原発、メルトダウン、どの言葉も私は正確には理解できなかった。ただ、避難を勧めてくれた人々の口調や、夫が提示するさまざまな情報から、恐ろしいことが起きたのだとは分かった。
避難先で私は、放射能について調べ続けた。チェルノブイリ関連の動画を見て、放射能の単位から、α線、β線、γ線の違い、除染の方法、放射能の感受性が最も強いと言われる乳幼児への影響。目が覚める度ツイッターで原発情報を確認し、唯一の頼りであったインターネット上でも情報統制が始まってからは、海外のニュースを掻かき集めた。

食べ物の暫定基準値が引き上げられたことを知った時からは、海外移住も考え始めた。

四月、私は岡山で娘を出産した。夫と離れて暮らし、長女は岡山の保育園に通わせ始めた。
悩んだ挙げ句、次女は母乳で育て、人に預ける時は輸入ミルクを飲ませることにした。
長女にはお弁当、水筒、おやつを持参させた。飲食物は九州のものか輸入ものを買い、牛乳とヨーグルトは禁止し豆乳を飲ませている。
放射能を心配する親を、気にしすぎだと揶揄やゆする人もいるらしい。人は多少被曝ひばくしても平気なのかもしれない。
でも、平気じゃないかもしれないのだ。よく分からない以上、私は食べさせたくはないし、東京に戻りたくはない。

原発はすぐにでも全炉停止した方がいい。二度とこんなことは起こってほしくないし、今回の件で、今や一部の利権のためだけに原発があることが、周知の事実となったからだ。食べ物の基準値は引き上げ前の値に戻し、汚染食品が乳幼児の口に入らないよう規制する。
そして危険とされる場所に住む人々の疎開は国が全面的に援助し、生活を保障する。

 こういう誰にでも分かるはずのことができないのは、政府や東電の社員が悪人だったり、無能だからではないのだろう。反原発の総理大臣にも、原発推進の流れは変えられなかった。天皇がそれを望んでも変わらないだろう。
数万人がデモを起こしても、デモに行かなかったその何百倍、何千倍もの人々が願っていても、変わらないままだ。

 既に放射能の危険性を考えなくなった人は多い。何もできないのが分かっていれば、余計に辛つらいだけだからだ。
命より大切なものはないと言うが、失業を理由に自殺する人が多いとされるこの国で、失業を理由に逃げられない人、人事が恐こわくて何もできない人がいることは不思議ではない。

しかし多くの人が癌がんで死ぬ可能性よりも、個々の人間とは無関係、無慈悲に動いていくこの社会に対して、私たちが何もできないことの方が、余程絶望的かもしれないのだ。

 私たちは原発を制御できないのではない。私たちが原発を含めた何かに、制御されているのだ。人事への恐怖から空気を読み、その空気を共にする仲間たちと作り上げた現実に囚とらわれた人々には、もはや抵抗することはできないのだ。

しかしそれができないのだとしたら、私たちは奴隷以外の何者でもない。それは主人すらいない奴隷である。


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